「サードウェーブコーヒー」という言葉を聞いたことはありますか?コーヒーに少し詳しくなってくると必ず出会う言葉ですが、正直「第三の波って何?」と最初は意味がよく分かりませんでした。コーヒーに波なんてあるの?と思って調べてみたんですが、これがなかなか興味深い概念で、コーヒーをもっと楽しむためのヒントが詰まっているんです。
サードウェーブコーヒーを一言で言うなら、「コーヒーをワインのように楽しむ文化」です。どの農園で作られた豆か、どんな精製方法を使っているか、どの焙煎度合いが豆の個性を最大限に引き出すか、という視点でコーヒーを語る。それがサードウェーブコーヒーの世界観です。
2015年にブルーボトルコーヒーが日本・清澄白河に上陸したことで、日本でもサードウェーブコーヒーという言葉が一般的に知られるようになりました。あの行列と話題性は覚えている方も多いのではないでしょうか。でも、ブルーボトルが「サードウェーブ」の全てではないし、そもそもサードウェーブって何が特別なの?というところを丁寧に解説していきたいと思います。
この記事では、ファーストウェーブからサードウェーブまでのコーヒーの波の変遷、サードウェーブの具体的な特徴、スペシャルティコーヒーとの違い、そして日本のサードウェーブシーンまで解説します。
コーヒーの三つの波とは何か
サードウェーブを理解するためには、まず「ファーストウェーブ」「セカンドウェーブ」との違いを整理する必要があります。コーヒーの波(ウェーブ)は、コーヒーがどのように消費され、どのような価値を持つものとして認識されてきたかの変遷を示しています。
ファーストウェーブ、コーヒーの大衆化の時代
19世紀後半から1960年代にかけての時代をファーストウェーブと呼びます。この時代のキーワードは「大量消費」と「手軽さ」です。インスタントコーヒーの発明と普及がこの時代の象徴で、コーヒーは誰でも、どこでも、安く飲める日用品として広まりました。
ファーストウェーブでは、コーヒーの品質や産地はほとんど話題になりません。「安くて手軽に飲めればいい」という価値観が優先され、ブランドよりも価格が選ばれる基準でした。缶コーヒーやインスタントコーヒーが普及した日本の1950〜70年代も、ファーストウェーブの影響を受けた時代と言えます。
ファーストウェーブを経て、コーヒーは世界中の家庭に浸透しました。ただし、「美味しいコーヒー」よりも「カフェインが入っていて目が覚める飲み物」としての側面が強かった時代でもあります。
セカンドウェーブ、スタバが世界を変えた時代
1960年代から2000年頃にかけてのセカンドウェーブは、スターバックスに代表されるシアトル系コーヒーチェーンが世界的に広まった時代です。エスプレッソをベースにしたカフェラテ、カプチーノ、フラペチーノなど、バリエーション豊かなコーヒードリンクが登場し、「コーヒー体験」を楽しむ文化が生まれました。
セカンドウェーブの革新は、コーヒーを単なる飲み物から「ライフスタイルの一部」に変えたことです。スターバックスでコーヒーを飲むことはおしゃれであり、ブランドとしての価値が豆の品質よりも重要視される時代になりました。「グランデ」「ベンティ」「ドーピオ」などのイタリア語のコーヒー用語が日常語として広まったのもこの時代の影響です。
ただ、セカンドウェーブでは豆の産地や品質よりも「体験」や「カスタマイズ」が優先されていました。深煎りの豆を使うことが多く、「コーヒー豆そのものの個性」はシロップや牛乳の後ろに隠れてしまうことも多かったです。
サードウェーブ、コーヒーを芸術として捉える文化
2000年代以降に台頭したサードウェーブは、ファーストウェーブの「大量消費」とも、セカンドウェーブの「ブランド体験」とも異なるアプローチをとります。「コーヒー豆そのものの品質と個性を最大限に引き出す」ことが最優先の価値になりました。
サードウェーブの基本的な考え方は、コーヒーをワインと同じように扱うことです。ワインが「ブドウの品種・産地・収穫年」を重視するように、サードウェーブコーヒーは「豆の品種・農園・精製方法・焙煎度合い」を重要視します。それぞれの要素が最終的な一杯の味にどう影響するかを理解して楽しむのがサードウェーブのスタイルです。
サードウェーブコーヒーの5つの特徴
サードウェーブコーヒーを定義する要素はいくつかあります。特に重要な特徴を解説します。
シングルオリジンと産地への注目
サードウェーブコーヒーの最も分かりやすい特徴の一つが、「シングルオリジン」へのこだわりです。シングルオリジンとは、特定の農園または地域で生産された豆のみを使ったコーヒーのこと。複数の産地の豆を混ぜた「ブレンドコーヒー」とは対照的で、産地ごとの個性を純粋に楽しめます。
「エチオピア イルガチェフェ」「パナマ ゲイシャ農園」「コロンビア ナリーニョ」など、農園や地区名まで表示されるのがサードウェーブコーヒーの店の特徴です。これはワインのラベルに産地が細かく記されているのと同じ感覚です。産地の情報が、その豆がどんな味わいを持つかを語るための言語になっています。
浅煎りと豆の個性を活かす焙煎
セカンドウェーブ(特にスタバ)では深煎りの豆が主流でしたが、サードウェーブでは浅煎り〜中煎りの豆が好まれます。理由は、深く焙煎するほど豆の個性が均一化されていくのに対し、浅煎りでは豆が持つフルーティーな酸味やフローラルな香りが生き生きと表れるからです。
エチオピアの豆を浅煎りにすると、ブルーベリーやジャスミンのような香りが感じられることがあります。これは豆の産地と品種が持つ固有の個性で、深煎りにするとこういった繊細なフレーバーは消えてしまいます。「豆の個性を壊さずに引き出す焙煎」を追求するのがサードウェーブの焙煎スタイルです。
ダイレクトトレードと生産者との関係性
サードウェーブコーヒーのもう一つの重要な特徴が、「ダイレクトトレード」です。コーヒー豆の取引では通常、農家→輸出業者→輸入業者→ロースターという流通経路をとります。ダイレクトトレードは、ロースターが農家と直接取引をすることで、品質の追跡(トレーサビリティ)を確保し、農家への適正な報酬を実現しようとする取り組みです。
「このコーヒーはどの農園で誰が作ったか」が分かることで、消費者は安心して飲めますし、生産者も品質を上げるモチベーションになります。フェアトレード認証とも共通する考え方で、コーヒーを取り巻くサプライチェーン全体を持続可能なものにしようとする姿勢がサードウェーブには根付いています。
バリスタという職人の確立
サードウェーブの時代に、「バリスタ」という職業が一つの専門職として確立されました。コーヒーを淹れる技術者としてのバリスタは、豆の知識、抽出の技術、カスタマーとのコミュニケーションを兼ね備えた専門家です。世界バリスタ選手権(WBC)が開催され、ソムリエのようにバリスタの技術が競われるようになりました。
日本でもバリスタを目指す人が増え、コーヒー専門の学校やトレーニングプログラムが整備されました。一杯のコーヒーに注ぐ真剣さという点では、昭和の純喫茶のマスターたちと通じるものがあり、日本のコーヒー文化の土台がサードウェーブと相性が良い理由のひとつかもしれません。
ラテアートとコーヒーの視覚的な楽しみ
サードウェーブコーヒーの店では、ラテアートも重要な要素です。エスプレッソにスチームミルクを注いでハートやリーフなどの模様を描くラテアートは、コーヒーを「味覚だけでなく視覚でも楽しむもの」という価値観を体現しています。
ラテアートはバリスタの技術の証明でもあります。きれいなラテアートが描けるということは、ミルクのスチーミング技術とエスプレッソの抽出精度が高いことを示しています。SNS時代と相性が良く、サードウェーブカフェのラテアートがInstagramで拡散されることで、店の認知度が高まるという側面もあります。
スペシャルティコーヒーとサードウェーブの違い
サードウェーブを調べていると必ず出てくるのが「スペシャルティコーヒー」という言葉です。この二つはセットで使われることが多いですが、実は指している概念が異なります。
スペシャルティコーヒーは品質の基準
スペシャルティコーヒーとは、SCA(スペシャルティコーヒー協会)が定める品質基準を満たしたコーヒーのことです。具体的には、訓練された評価者(Qグレーダー)が専用のカッピング方法でコーヒーを評価し、100点満点のスコアリングで80点以上を獲得したものがスペシャルティコーヒーと認定されます。
欠点豆の混入が非常に少なく、栽培・収穫・精製・選別・品質管理の全工程が適正に管理されていることが前提です。つまり、スペシャルティコーヒーは「コーヒーの品質カテゴリ」であり、ある豆がスペシャルティかどうかは数値的な基準によって判定されます。
サードウェーブはコーヒー文化のトレンド
一方サードウェーブコーヒーは、品質基準ではなく「コーヒーに対する考え方や文化の潮流」を指す言葉です。スペシャルティコーヒーを扱うことはサードウェーブの特徴の一つですが、サードウェーブはそれだけでなく、生産者との関係性、焙煎哲学、抽出技術、バリスタ文化など、コーヒーを取り巻く全体的なムーブメントを指します。
個人的には「スペシャルティコーヒーは素材の基準、サードウェーブはそれを活かす文化と哲学」と理解するのが分かりやすいと思います。高品質な素材(スペシャルティ)を、最大限に引き出す思想と技術(サードウェーブ)。この二つがセットで語られることが多いのは、自然なことです。
日本のサードウェーブシーン
日本でサードウェーブコーヒーが話題になったのは2015年前後です。ブルーボトルコーヒーの日本上陸を機に、東京を中心にサードウェーブ系のコーヒーショップが急増しました。
ブルーボトルコーヒー上陸の衝撃
2015年2月、ブルーボトルコーヒーが東京・江東区清澄白河に日本1号店をオープンしました。オープン日から長蛇の列ができ、連日数時間待ちという状況が続きました。「コーヒー1杯のために2時間並ぶ」という現象は、それまでの日本のコーヒーカルチャーにはなかったことです。
ブルーボトルの特徴は、「注文してから豆を挽いて、バリスタが手で一杯ずつ淹れる」という徹底したこだわりです。コーヒーチェーンのように大量に作り置きするのではなく、一杯一杯に時間をかける。この姿勢が「コーヒーを丁寧に作る文化」として日本でも大きな共感を呼びました。
東京清澄白河から広がったサードウェーブ
ブルーボトルが清澄白河に出店したことで、同地区はサードウェーブコーヒーの聖地として注目されるようになりました。その後、周辺にも同様のコンセプトを持つコーヒーショップが増え、「清澄白河はコーヒーの街」として認識されるようになります。
東京以外でも、大阪、京都、福岡、札幌などの主要都市でサードウェーブ系の個性的なコーヒーショップが増えています。産地にこだわった豆を取り扱い、バリスタが丁寧に一杯ずつ淹れるスタイルは、全国に広まっています。また、日本には昭和時代から「職人がこだわって一杯を淹れる」純喫茶の文化があったため、サードウェーブの価値観と日本人の感覚は実は相性が良い、という意見もあります。
サードウェーブコーヒーをもっと楽しむために
サードウェーブコーヒーの概念を知ると、コーヒーの楽しみ方が広がります。どうすれば日常の中でサードウェーブ的なコーヒーの楽しみ方ができるか、実践的なヒントを紹介します。
シングルオリジンの豆を試してみる
まず手始めに、近くのスペシャルティコーヒー店で「シングルオリジン」の豆を一種類買ってみることをおすすめします。店員さんに「今日のおすすめはどれですか?」と聞くと、豆の産地や味の特徴を丁寧に教えてくれることが多いです。
試してみると分かるのですが、産地によってコーヒーの味が全然違います。エチオピアの豆はベリーやフローラルな香りがあって、ブラジルの豆はナッツとチョコレートのような香ばしさがある。「コーヒーって全部同じ味」と思っていた人が、シングルオリジンを飲んだときの驚きは、かなり大きいはずです。
カッピングやテイスティングのイベントに参加する
スペシャルティコーヒーの店では、定期的に「カッピング」や「テイスティング」のイベントを開催していることがあります。カッピングとは、コーヒーの品質評価に使われる方法で、複数の豆を比較して香りや味わいを評価する体験です。
専門的な知識がなくても参加できるイベントも多いので、興味があれば気軽に参加してみることをおすすめします。口コミやSNSでイベント情報を調べると、近くのコーヒーショップのカッピングイベントが見つかることがあります。コーヒーを飲む前に香りを確認する、スプーンでソーサーに少量取って飲む、という作法も体験できます。
まとめ
サードウェーブコーヒーとは何かを整理しました。コーヒーの「第一の波(大量消費)」「第二の波(ブランド体験)」に続く「第三の波」として、コーヒー豆そのものの品質と個性を最大限に引き出すことを価値とする文化・ムーブメントです。
シングルオリジンへのこだわり、浅煎りによる豆の個性の表現、ダイレクトトレードと生産者との関係性、バリスタという職人の確立、ラテアートの視覚的な表現。これらがサードウェーブコーヒーの主要な特徴です。
スペシャルティコーヒーが「豆の品質基準」を指すのに対し、サードウェーブは「コーヒー文化のトレンドと哲学」を指す言葉です。日本では2015年のブルーボトル上陸を機に広まり、今では全国の都市でサードウェーブ系のカフェが楽しめるようになっています。
コーヒーを「ただ目を覚ますための飲み物」ではなく、産地や栽培方法、精製プロセスまでを味わう飲み物として楽しみ始めると、毎日のコーヒーが別の体験になります。まずは近くのスペシャルティコーヒー店に足を運んで、シングルオリジンの一杯を試してみるところから始めてみてください。

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